逆ピラミッド構造で近赤外光を利用し像面位相差検出(Renesas IISW2019)

初めまして

普段学んでいるイメージセンサ関連の技術に関してアウトプットの場を求めてこのブログを開設いたしました。

私が興味を持ったイメージセンサの技術たちについてゆるーくご紹介出来たらなと思っています。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

 

いきなりですが、初回である今回は2019年6月にアメリカのスノーバードで開催された International Image Sensor Workshop (IISW) で Renesas Electronics Corporation が発表された

Tatsuya Kunikiyo et al, “A technique for phase-detection auto focus under near-infrared-ray incidence in a back-side illuminated CMOS image sensor pixel with pyramid textured interfaces for diffraction,” Proc. of International Image Sensor Workshop (IISW), 2019.

をご紹介したいと思います。

 

ISSCCやIEDM、VLSI symposium ではセッションのひとつとしてイメージセンサ部門があるだけなのですが、このIISWは全てイメージセンサに関する発表であり、またワークショップということもあり試験的なセンサも多く発表され、私個人的には上記の3大半導体国際会議よりも楽しみにしています。私も若いうちに参加してみたいなと思っている学会の一つです。

 

さて、Renesas の論文についてですが 

通常のイメージセンサでは赤外感度は可視光に比べて高くないためオートフォーカスのための位相差検出も当然可視光で行っています。そのため、暗時のオートフォーカスはあまり得意ではありません。

Renesas が発表したこのセンサは逆ピラミッド構造による回折により近赤外光の感度を向上させて、近赤外光による像面位相差検出を目的としたセンサです。

これにより、暗時(近赤外光あり)でも像面位相差検出が可能になるかもしれません。

 

この論文にある逆ピラミッド構造というのは Sony が IEDM 2017 で発表した近赤外高感度センサ

I. Oshiyama et al, “Nearinfrared Sensitivity Enhancement of a Back-illuminated Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor with a Pyramid Surface for Diffraction Structure,” International Electron Devices Meeting (IEDM), Tech., Dig., pp. 397-400, 2017.

 と同じ構造になります。

太陽電池の分野では昔から使われている技術ですね。屈折率の変化を緩やかにすることによる反射防止効果と入射光の回折により光電変換部を通過する際の光路長を伸ばすというの2つの効果があり、太陽電池では前者の反射防止としての意味合いが強いように思います。

イメージセンサの分野でも SiOnyx のブラックシリコンが同様の構造で近赤外高感度のセンサとして開発されています。

ただ、この構造の弱点として異方性のウェットエッチにより Si の111面が露出するため界面においてダングリングボンドの数が増え暗電流が増加してしまいます。しかし、上記 Sony のセンサでは、うまくピニングしているのか未結合手を処理しているのかわかりませんが何らかの方法で抑えられているようです。ここは半導体プロセスの技術が必要になるところでしょうね。さすが Sony です。

 

Renesas のセンサはこの逆ピラミッド構造を画素の半分にだけ適用し、半遮光型の像面位相差AFと同じように光学系の右から来る光と左から来る光に感度差を持たせることで左右の像を分離しています。

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さらに面白いのが画素のDTI(Deep Trench Isolation)の囲い方

 PTID画素構造をよく見るとPTIDが形成されていない方のDTIが無くコの字になっています。これではDTIが無い側の隣接画素とのクロストークが問題になってしまいそうですが、あえてそれを狙っているようです。

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+角入射で隣接する画素からのクロストークによりPDの受光量を増やし、-角入射で隣接する画素へクロストークさせることで感度を低下させます。これによりさらに左右の像の分離特性を向上させています。

このコの字型DTIによる効果とPTIDによる効果により像分離特性を向上させているようです。

 

最近のイメージセンサは画素サイズ 0.7um にまで微細化されており、各研究機関ともに感度とのトレードオフを様々な方法で解決していますね。クロストークが大きな問題にならないのなら回折によるの感度向上は流行るかもしれません。

IISW 2019 の他の論文で Samsung も画素中に配置した DTI による回折により940nm で QE 43% を達成していたので、この論文についてもいつかご紹介出来たらなと思います。