ISSCC 2020 タイトルから予想するイメージャー関連発表①

 

いよいよ2日後に ISSCC 2020 が開催され、今年も多くのイメージャー発表件がありますが

Image Sensors World: Image Sensors at ISSCC 2020

今回はその中から

Samsung の 0.7μm 画素センサについて考察していきたいと思います。

A 1/2.65in 44Mpixel CMOS Image Sensor with 0.7µm Pixels Fabricated in Advanced Full-Depth Deep-Trench Isolation Technology

 

(個人的には、パナソニックの直接型と間接型をミックスしたToFの方が気になっております。ガイガーモードで動作させた場合、電荷の振り分けは困難に思えるので、非ガイガーモードで電荷振り分けしてるのか?とか、間接型も同一画素にミックスするとなると構造も駆動も複雑になると思うので、そこまでして間接型と取り入れるメリットは何なのか?とか、疑問点はたくさんありますがまずは予想しやすいものから見ていこうと思います)

 

ということで、 IISW 2019 のページにも関連論文が多く掲載されており比較的理解しやすそうな Samsung の 0.7μm センサについてですが、 

今回 Samsung は私の知る限り世界最小の 0.7μm(PDAF用画素を除く)という画素ピッチを実現していますが、正直、微細化そのものに対する課題はそんなに多くないのではないかと思っております。これまでのPDAF関連の発表でも示されているようにもっと微細な画素でもきっちり素子分離してフォトダイオードを形成出来ていることから画素を小さく作ること自体についてはそこまで課題があるようには感じません。 

それよりも微細化によるトレードオフをどのように改善するかがポイントになる気がします。

 

画素微細化によって生じる課題としては、

① 感度の低下

② クロストークの増大

③ 飽和電子数の減少

あたりでしょうか。

もっと細かく見ると、微細化のために必要な技術により生じるデメリット(例えば、DTIによる暗電流増加とか)の改善も必要になるのでしょうけど…。

 

① 感度の低下については、画素が小さくなるほど受光面積が小さくなるため感度が低下してしまうということなのですが、 この課題の解決策の一つが Sonyのホームページで紹介されています。

技術|イメージセンサー:モバイル|製品情報|ソニーセミコンダクタソリューションズグループ

 ここで紹介されている技術の中に

「Quad Bayer配列」というのがあります。Samsung では「Tetra Cell」と呼んでいますが、これは2×2の同色画素をビニングし1色あたりの受光面積を大きくすることで感度を向上させ、明るい時には2×2画素を4画素分として後処理することで高精細な画像も取得できるというカラーフィルタ配列(あるいは画像処理技術)です。

低照度時

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高照度時

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また Quad Bayer配列は感度向上に寄与するだけではなく2x2 On-Chip Lens と組み合わせることにより、従来の横方向の位相差検出だけではなく縦方向の位相差検出も可能にし、PDAF可能な撮像対象の幅を広げます。(これは、現時点ではおそらく Sony だけの技術のように思えます)

Tetra Cellに加えて Samsung ではカラーフィルタ間の分離をメタルによる分離ではなく、低屈折率材料による分離を行っており、これによりメタルに光が当たった時の光の吸収を低減し感度の向上を図ったりもしています。(ISOCELL PLUS と呼んでいるのがおそらくこれに相当する技術だと思います)

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Samsung では上記の Tetra Cell と 低屈折材料による分離によって、微細化による感度の低下を改善しているようです。

  

② クロストークの増大に関して Samsung では、Full-Depth DTI により改善しています。DTI を採用している他の企業(Sony など)では光電変換部の Si の途中までしかDTIを形成しておらず、光学的に画素を完全に分離出来ていません。微細画素センサではクロストークの影響が大きくなり、特に長波長の光ではその影響が大きくなるので画素を完全に分離する Full-Depth DTI によりクロストークを大幅に改善しているようです。ただ、Full-Depth にすることでトランジスタの配置が制限されてしまうというデメリットもあります。

 

③ 飽和電子数の減少については、画素の深い領域にまでフォトダイオードを形成することで、画素面積の減少による飽和電子数の減少を抑えており、加えて Samsung では深い領域からも転送できるように VTG を採用していたり飽和向上のために複数の新しい構造(といっても2014年にはF-DTIとVTGを採用したセンサがSamsungからされていますが)を取り入れています。また、VTGには Full-Depth DTI にした際にもトランジスタを自由に配置しやすくなるというメリットもあります。

ただこれも Full-Depth DTI同様に高いプロセス技術が求められ、Samsung半導体製造技術の高さが垣間見えます。

 

今回の ISSCC の発表でも上記の3技術はおそらく取り入れられていると思います。

 

また、Samsung では3×3のカラーフィルタ配列センサに関するニュースもあったりして、モバイル向けイメージセンサに対する本気度がうかがえます。

Image Sensors World: Samsung Unveils 108M Sensor with Nonacell CFA

 

今回紹介した微細画素センサは、おそらくモバイル向けの小型のセンサで高解像度の画像を撮るのを目的にしていると思うのですが、画素の微細化に伴ってセンサの多画素化が進み、高解像度化だけでなくライトフィールドカメラのように複数の画素で新たな情報を取得する方向にも進化していくと思うので、ただ高解像度化させるだけではなく多画素化に伴うセンサの多機能化などにも期待したいと個人的には思っています。

 

逆ピラミッド構造で近赤外光を利用し像面位相差検出(Renesas IISW2019)

初めまして

普段学んでいるイメージセンサ関連の技術に関してアウトプットの場を求めてこのブログを開設いたしました。

私が興味を持ったイメージセンサの技術たちについてゆるーくご紹介出来たらなと思っています。皆様どうぞよろしくお願いいたします。

 

いきなりですが、初回である今回は2019年6月にアメリカのスノーバードで開催された International Image Sensor Workshop (IISW) で Renesas Electronics Corporation が発表された

Tatsuya Kunikiyo et al, “A technique for phase-detection auto focus under near-infrared-ray incidence in a back-side illuminated CMOS image sensor pixel with pyramid textured interfaces for diffraction,” Proc. of International Image Sensor Workshop (IISW), 2019.

をご紹介したいと思います。

 

ISSCCやIEDM、VLSI symposium ではセッションのひとつとしてイメージセンサ部門があるだけなのですが、このIISWは全てイメージセンサに関する発表であり、またワークショップということもあり試験的なセンサも多く発表され、私個人的には上記の3大半導体国際会議よりも楽しみにしています。私も若いうちに参加してみたいなと思っている学会の一つです。

 

さて、Renesas の論文についてですが 

通常のイメージセンサでは赤外感度は可視光に比べて高くないためオートフォーカスのための位相差検出も当然可視光で行っています。そのため、暗時のオートフォーカスはあまり得意ではありません。

Renesas が発表したこのセンサは逆ピラミッド構造による回折により近赤外光の感度を向上させて、近赤外光による像面位相差検出を目的としたセンサです。

これにより、暗時(近赤外光あり)でも像面位相差検出が可能になるかもしれません。

 

この論文にある逆ピラミッド構造というのは Sony が IEDM 2017 で発表した近赤外高感度センサ

I. Oshiyama et al, “Nearinfrared Sensitivity Enhancement of a Back-illuminated Complementary Metal Oxide Semiconductor Image Sensor with a Pyramid Surface for Diffraction Structure,” International Electron Devices Meeting (IEDM), Tech., Dig., pp. 397-400, 2017.

 と同じ構造になります。

太陽電池の分野では昔から使われている技術ですね。屈折率の変化を緩やかにすることによる反射防止効果と入射光の回折により光電変換部を通過する際の光路長を伸ばすというの2つの効果があり、太陽電池では前者の反射防止としての意味合いが強いように思います。

イメージセンサの分野でも SiOnyx のブラックシリコンが同様の構造で近赤外高感度のセンサとして開発されています。

ただ、この構造の弱点として異方性のウェットエッチにより Si の111面が露出するため界面においてダングリングボンドの数が増え暗電流が増加してしまいます。しかし、上記 Sony のセンサでは、うまくピニングしているのか未結合手を処理しているのかわかりませんが何らかの方法で抑えられているようです。ここは半導体プロセスの技術が必要になるところでしょうね。さすが Sony です。

 

Renesas のセンサはこの逆ピラミッド構造を画素の半分にだけ適用し、半遮光型の像面位相差AFと同じように光学系の右から来る光と左から来る光に感度差を持たせることで左右の像を分離しています。

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さらに面白いのが画素のDTI(Deep Trench Isolation)の囲い方

 PTID画素構造をよく見るとPTIDが形成されていない方のDTIが無くコの字になっています。これではDTIが無い側の隣接画素とのクロストークが問題になってしまいそうですが、あえてそれを狙っているようです。

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+角入射で隣接する画素からのクロストークによりPDの受光量を増やし、-角入射で隣接する画素へクロストークさせることで感度を低下させます。これによりさらに左右の像の分離特性を向上させています。

このコの字型DTIによる効果とPTIDによる効果により像分離特性を向上させているようです。

 

最近のイメージセンサは画素サイズ 0.7um にまで微細化されており、各研究機関ともに感度とのトレードオフを様々な方法で解決していますね。クロストークが大きな問題にならないのなら回折によるの感度向上は流行るかもしれません。

IISW 2019 の他の論文で Samsung も画素中に配置した DTI による回折により940nm で QE 43% を達成していたので、この論文についてもいつかご紹介出来たらなと思います。